二世帯住宅NTR 妻が娘の亭主に寝取られた…。 愛田るか
家庭という密室を舞台に、人間の心の揺れを丁寧に描いた構成は、映像のトーンや間の取り方まで計算され尽くしており、観る者の想像力を刺激します。
愛田さんの表情や仕草から滲む「言葉にならない感情」は圧巻で、人生経験を重ねた女性の美しさと内なる情熱が繊細に表現されています。
単なる官能作品にとどまらない、大人のための心理劇としておすすめです。
【第1部】沈黙の家──覗き見た幸福の光の中で
東京・世田谷の外れ。
夏の終わりを引きずる湿った風が、二世帯住宅の窓をやわらかく叩いていた。
娘の佳乃(よしの)が結婚して戻ってきたのは、わずか三か月前のことだった。
夫の秋生(あきお)は定年を控えた五十七歳。妻の瑠花(るか)は五十三歳。
それまで広すぎると思っていた家に、久しぶりに若い声と笑いが戻ってきた。
「お義母さん、こっちでご飯食べませんか?」
佳乃の夫・悠太(ゆうた)がそう言うたび、瑠花は胸の奥で微かなざわめきを覚えた。
その声が、かつて恋をした頃の自分を思い出させるようだったから。
夕食のあと、洗い物を終えた手を拭きながら、ふと階下の明かりに目を向ける。
リビングのカーテンの隙間から、淡い橙色の光がこぼれている。
その中で笑い声が重なり、やがて静寂が訪れた。
耳を澄ませると、何かが揺れるような、息を忍ばせたような気配がした。
「佳乃…? まだ起きてるのかしら…」
自分でも理由がわからないまま、瑠花は廊下へ出た。
階段を下りる足取りは、まるで夢の中を歩くように軽かった。
階下の扉の向こうで、光が揺れた。
影が二つ、寄り添い、また離れた。
呼吸と呼吸がぶつかるようなその輪郭を見た瞬間、胸の奥が焼けるように熱くなった。
その夜、寝室で秋生が話しかけても、瑠花はほとんど何も答えられなかった。
まぶたを閉じるたびに、光の中で絡み合う影が浮かび、
身体の奥で何かが静かに目を覚ましていくのを感じた。
【第2部】影の温度──見てはいけないものを見た夜の記憶
瑠花が再び階下を覗いたのは、それから三日後の夜だった。
理由はなかった。夕食の皿を洗い終えたあと、ふと身体がそちらを向いた。
指先に洗剤の泡が残っているのに、なぜか心は落ち着かず、胸の奥で鈍い音が鳴った。
二世帯住宅の構造上、階段の途中からでも娘夫婦のリビングがわずかに見える。
その夜、佳乃は風呂場にいるようだった。
リビングには悠太だけがいて、グラスを手に音楽を流していた。
柔らかなギターの旋律が夜気の中に溶けて、家全体が静かに震えているように感じられた。
その瞬間、悠太が顔を上げた。
目が合ったわけではないのに、瑠花は息を止めた。
ガラス越しの光の中で、彼の輪郭がゆっくりとこちらへ向かう。
何かを見透かされたようで、背筋が凍り、同時に熱が広がる。
胸の奥で何かがざらりと動いた。
娘の夫であるその男に、母としてではない何かを感じてしまった。
理性が拒んでも、記憶はその瞬間を焼き付けて離さなかった。
翌朝、瑠花は鏡の前で化粧をしている自分を見つめ、ふと笑った。
唇にうっすら紅をさすと、十年前の顔が戻ってきた気がした。
「どうしたの?」と秋生が尋ねたとき、瑠花は軽く首を振るだけだった。
それからというもの、彼女は頻繁に“娘宅”を訪れるようになった。
夕飯を届ける名目で、洗濯物を取りに行くと言い訳をして。
訪れるたびに、微かな香りや温度の違いに心が波打った。
そのたびに、家へ戻る階段の途中で立ち止まる。
罪悪感のような、幸福のような、説明できない熱が、
喉の奥に絡みついて離れなかった。
【第3部】揺れる日常──罪と温もりの狭間で
秋が深まるにつれ、二世帯住宅は奇妙に静かになっていった。
外では銀杏が黄色に染まり、風に乗って小さな葉が玄関の隙間から忍び込む。
そのたびに瑠花は、心の奥で何かを思い出すように息を止めた。
あの夜以来、悠太と視線を交わすたびに、言葉が見つからなかった。
彼の声は穏やかで、どこまでも礼儀正しかった。
けれど、その礼儀の奥に一瞬だけ浮かぶ影が、
瑠花の心を静かに、しかし確実に揺さぶった。
ある午後、佳乃が外出しているときだった。
「お義母さん、コーヒーでもどうですか?」
その何気ない言葉に頷きながら、瑠花はリビングの窓辺に座った。
カップから立ちのぼる湯気が、光の中で白く揺れ、
その向こうに見える悠太の横顔は、どこか遠くを見ているようだった。
ふとした沈黙。
空気がやわらかく沈み込み、時計の音が遠のく。
その静けさに、二人の呼吸だけが際立った。
まるで、何かを待っているように。
「お義母さん、寒くないですか?」
その声は、ただの気遣いだった。
けれど、瑠花の胸の奥では、それがまるで触れられたように響いた。
指先がカップの縁をなぞるたび、
目に見えない線が二人の間に描かれていく。
やがて玄関のドアが開く音がして、佳乃の声が響いた。
その瞬間、時間が再び動き出した。
瑠花は立ち上がり、笑顔を作って「そろそろ帰るわ」と言った。
玄関先で靴を履くとき、背中に感じたあの温度が、
現実なのか幻なのか、彼女にはもう分からなかった。
その夜、寝室で秋生が眠る隣、
瑠花は自分の手のひらを見つめていた。
誰のものにもならない体のぬくもりが、
まるで消えかけた夢のように、そこに残っていた。
【まとめ】沈黙の余韻──欲望は言葉より静かに生きる
この物語において「濡れ」とは、
肉体ではなく、心の奥で溢れるものとして描かれている。
瑠花は誰にも触れられないまま、確かに変わってしまった。
娘夫婦の暮らしを覗いた夜から、
彼女は「妻」でも「母」でもない、ひとりの女として呼吸を取り戻したのだ。
罪とは、必ずしも破滅ではない。
むしろ、それは人が自分の深部と向き合うための小さな裂け目なのかもしれない。
静けさの中で、
彼女の胸の奥にはまだ、あの午後の陽射しのような温もりが残っていた。
消えないものとして、痛みを伴う美しさとして。
 


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