慰安旅行NTR ～性欲を持て余した会社の上司どもに妻が輪●された…～ 加藤あやの
夫婦で訪れた温泉宿で、妻・あやのは“妻”としての顔と“女”としての素肌のあいだで揺れ動く。
穏やかな笑顔の裏に潜む支配と快楽の均衡、理性が崩れる音が畳の上で静かに響く。
加藤あやのの柔らかな演技と、抑えた吐息のリアリズムが、観る者の胸を締めつける。
露骨ではなく、静かな背徳と熱を描く──成熟した官能の極みがここにある。
【第1部】沈黙の乾杯──崩れゆく「妻」という名の輪郭
38歳、佐伯真奈。
横浜で暮らす私は、ほんの二年前まで専業主婦だった。
けれど、夫の突然のリストラで、すべてが変わった。
その後、取引先の小沢社長に拾われるようにして夫は再就職し、私たちはなんとか再び日常を取り戻した。
少なくとも、表面上は。
社内の慰安旅行に「夫婦同伴で」と言われたとき、私は迷った。
会社の行事など、これまで一度も顔を出したことがない。
けれど夫は、どこか怯えるような笑みで「行こう」と言った。
彼の中にある“借り”の重さを、私は痛いほど知っていた。
七月の終わり、群馬の温泉地。
車窓に映る山の稜線が、曇り空の中でぼやけていた。
助手席に座る私の手を、夫は一度も握らなかった。
代わりに、後部座席の社長たちが楽しげに笑う声が響いている。
私はその笑い声を聞きながら、自分がどこへ向かっているのか分からなくなっていた。
宿に着くと、女将が用意してくれた浴衣が、薄い桃色で、襟のあたりが心もとなかった。
鏡の前で帯を締める指先が少し震えた。
「どうして、私も来たんだろう」
そう呟くと、鏡の中の私が、少しだけ微笑んだ気がした。
夜の宴会。
盃が何度も交わされ、笑いが重なるたびに、空気が少しずつ濃くなっていく。
男たちの視線が、私の浴衣の襟元で揺れていた。
その熱を、肌が確かに感じていた。
夫の隣にいるのに、私は“妻”という境界を見失いはじめていた。
――乾杯。
その声に合わせて杯を掲げた瞬間、私は、何かを手放した気がした。
名前のない感情が、胸の奥で静かに形を変えていく。
笑い声の中心で、私はひとり、息を整えていた。
【第2部】ゆらめく影──欲と罪の境界で
夜は、想像よりも早く深く沈んでいった。
旅館の庭に吊るされた提灯が、風に揺れて、朱色の光を畳に落とす。
宴会の後、夫は酔いに任せて布団に沈み、静かな寝息を立てていた。
その横顔を見つめながら、私は胸の奥に渦巻く何かを抑え込もうとしていた。
「奥さん、もう少し飲みませんか？」
障子越しに社長の声がした。
私は返事をためらいながらも、断る言葉を見つけられなかった。
夫が眠っている、その静けさの中で、呼びかけられることがどこか救いのように感じられた。
廊下に出ると、畳の匂いが微かに湿っていた。
社長の部屋の前には、湯呑みと徳利。
そして開け放たれた窓の向こうに、夏の虫が鳴いていた。
「眠れませんでしたか」
「……はい。少し、頭が冴えて」
私は自分の声が思ったよりも柔らかく響いたのに驚いた。
グラスを受け取ると、指先に社長の手が触れた。
それだけのことだったのに、体の奥で脈が速くなるのがわかった。
誰も悪くない。ただ、時間が少しずつ歪んでいくだけだった。
「ご主人、随分飲まれてましたね」
「ええ……。あの人は、無理して笑う癖があるんです」
その言葉を口にした瞬間、胸の奥が少し痛んだ。
私は夫のためにここにいるのに、その夫を言い訳にしている。
それが分かっていても、逃げられなかった。
提灯の光が、薄く汗ばむ肌を照らしていた。
窓から吹き込む夜風が、浴衣の裾をわずかに揺らす。
私は息を止めた。
そのわずかな布の動きが、自分の中の何かを確かに撫でていった。
視線を逸らせば壊れてしまいそうな空気。
けれど、見つめ返せば戻れなくなる。
その狭間で、私はただ黙っていた。
言葉ではなく、沈黙がすべてを語っていた。
【第3部】赦しの朝──光の中でほどけていく影
夜の記憶は、夢のようにぼやけていた。
目を覚ますと、障子の隙間から差し込む光が、畳の目を金色に染めている。
鳥の声がかすかに聞こえ、温泉の湯気が遠くで立ちのぼる。
夫の寝息は浅く、いつものリズムに戻っていた。
その音を確かめながら、私はゆっくりと身体を起こした。
浴衣の襟がずれて、肩口に残る微かな熱が朝の空気に触れた。
それが、現実なのか夢なのか――確かめることが怖かった。
鏡の前に座ると、目の奥に夜の残り香が映っていた。
誰にも触れられていないようで、確かに何かが変わっていた。
頬にかかった髪を払う指先が、自分のものではないように感じる。
「どうして、泣いているの……」
声に出すと、涙ではなく静かな呼吸が溢れた。
朝食の席で、社長はいつも通りだった。
昨夜のことなど、なかったかのように穏やかな笑顔。
その笑みの中に、私は“約束”のような沈黙を見た。
夫は少し顔色が悪く、けれど何も問わなかった。
私も、問われないことに安堵していた。
帰りの車の窓から見える山々は、昨日よりも近く感じた。
車内に満ちる沈黙の中で、私は自分の膝の上に手を置いた。
その手のひらには、まだ熱が残っていた。
それは罪ではなく、生の証のようだった。
「また来ようか」
夫がそう言ったとき、私は頷いた。
その声には優しさと、少しの悲しみが混じっていた。
けれど、私の胸の奥では、別のものが静かに灯っていた。
それは赦しに似た感情――誰のものでもない、私だけの光。
夕暮れの横浜に戻るころ、街の明かりがひとつずつ灯り始めた。
その光が車窓を流れるたび、心の中でひとつずつ影がほどけていくようだった。
私は夫の肩にもたれながら、唇をかすかに開いた。
「ありがとう」
その言葉がどこへ向かうのか、自分でも分からなかった。
けれど、声にした瞬間、確かに何かが終わり、何かが始まった。
【まとめ】曖昧な笑みの奥で──愛と赦しのかたち
あの慰安旅行は、思えば人生のどこかに必ず訪れる“境界の夜”だった。
誰かの手に導かれながら、自分の輪郭を見失い、
それでも最後に取り戻したのは、他人ではなく“私”という存在だった。
人は皆、他者の視線によってかたちを保っている。
妻であり、女であり、人として立つために、
誰かに見つめられること、触れられることを恐れながらも求めてしまう。
その矛盾こそが、生きるということの柔らかな罪なのかもしれない。
あの夜、私の中で何かが壊れ、そして静かに再生した。
壊れたのは夫への忠誠ではなく、
“正しさだけで生きようとする自分”だった。
朝の光の中で、私は赦した。
夫を、社長を、そして何より、自分自身を。
曖昧な笑みの奥で、私はようやくひとりの女として息をしていた。
その息は熱を帯び、確かに生きていた。
罪でも恥でもなく、ただ、生の証として。
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